『私には無理かも』と感じる女性が多かった風土を
3年で一気に変革できた理由とは


ベイシア
人事本部本部長 割石正紀様

講師・ プレジデント総合研究所 認定講師/マインドリンク 代表取締役 山﨑 裕子

聞き手・プレジデントウーマン総研 所長 兼 編集長 木下明子

群馬県の小売業・ベイシアは、この2年で社内の女性活躍施策をトップダウンで急加速させました。もともと女性管理職比率も高くなく、女性社員がキャリアについて学ぶ場もないに等しい状況だったという同社ですが、導入した研修の効果で、研修の受講者から続々と女性管理職が誕生、そして行動変容も起こっています。3年前に、2つの女性活躍研修を導入した人事本部本部長の割石正紀氏と、プレジデント総研の認定講師として同社の女性向け研修を3期連続で担当するマインドリンク代表の山崎裕子氏に、同社の女性活躍施策と導入した研修の様子について、インタビューしました。
※この記事は2025年8月8日に開催されたウエビナーをもとに構成しています。

――まず、御社の女性活躍の状況について伺います。以前は女性が研修を受ける機会もほとんどなかったとお聞きしていますが、どのようなきっかけで取り組みを始められたのでしょうか?
 

割石 まず当社が、なぜ女性活躍を重視したのかについてお話しさせてください。われわれの店舗の購買データから購入意思決定者の7割が女性ということがわかっています。一方で、弊社の女性管理職比率は7%。意思決定層の構成にギャップがあるわけです。
 この課題を解決しようと、まずは2023年に社長からD&Iについてのトップコミットメントの発表がありました。「お客様のニーズを大事にするという意味で、D&Iはベイシアにとっての経営戦略である」という形で、将来的には女性に限らず、多様な人材を生かして企業を成長させていくんだと打ち出しました。

――トップがそのような発信をするのは素晴らしいですね。その後、具体的にどんな研修を導入されたんですか?

割石 今は経営幹部向けに「ダイバーシティ・マネジメント研修」、女性向けに「自律型リーダー育成研修」の2つの研修を行っています。導入して3年目に入っている自律型リーダー育成研修は、本人の希望制で行っているので、意欲の高い方が集まっています。ただ、研修受講後に女性が知識を得てモチベーション高く現場に戻っても、実際の上司が何も変わっていない状態だと、上司と女性社員の間にギャップができてしまうだけで、効果が薄れてしまう懸念がありました。
 ですから、まずは女性研修の前に、上司向けのマネジメント研修を実施したんです。対象者は社長含めた役員、管理職全員。流れとしては、前述のように社長のトップコミットメントの表明からスタートし、女性活躍についての外部環境も含めた知識のアップデート、その後アンコンシャスバイアスがあることなどを学び、最後に個人のアクションプランを作成してもらいます。各自のアクションプランを見える化して、たとえば「1on1やコーチングをやった方がいい」といった項目が出てきたら、現場での施策に落とし込んで自分事として実行していきます。この形で、3年間で一気に研修の参加者を増やし、現在では全管理職が研修を受け、D&Iの重要性については認識できている状況になっています。

――まず管理職から研修したのは素晴らしいですね。もう一つの女性向け研修「自律型リーダー育成プログラム」は、プレジデント総研でお手伝いさせていただいていますが、ご状況はいかがでしょう?

割石 はい、御社と山崎先生の力を借りて進めていますが、こちらが全体像になります。


 

 

割石 研修のキックオフから、1年間かけて実施するカリキュラムですが、すでに受講者は累計100名を超えています。先程申し上げたように希望制で募集するのですが、前年受講し、有意義だったと感じた受講者が、部下や同僚に推薦してくれることで、どんどん受講者が増えるという好循環が生まれています。


 
 

 

成果も出てきていて、参加者の中から管理職が何人も誕生しています。また、昇進だけではなく、キャリアの段階を問わないさまざまな層で非常に意義のある成果が出ているんです。弊社はスーパーが本業ですが年末年始、保育園が休みのときも稼働しています。1期生からは社内保育園がスポット的に動くことができないかという提案があり、彼女は、周りを巻き込んで見事稼働の実現にこぎ着けたんです。また、24年度の2期生は、福利厚生として女性トイレへの生理用品設置施策(通称:職場のロリエ)の導入を提案し、こちらも実現しました。
 研修の成果を正確に図るのは容易ではなく、よく費用対効果、経営で言えばROIを問われることもよくあると思うんですが、正直、研修でかけた費用を売り上げや利益にすぐに直結させることは難しいかもしれません。ただ、1つの視点として、こういったリーダーシップ研修の後に、受講者が能動的に動いた新規提案が何件あったのかというのが、1つの研修における評価指標になると私は考えています。

――お役に立ててうれしいです。もともと「自律型リーダー育成研修」は『プレジデントウーマン』編集部の知見によって、20代の若手女性のキャリア意識醸成を目指して企画したものでしたが、御社は、年齢や役職を問わず「あえて全階層の女性に入れたい」という強いご要望でしたね。

割石 はい、やはり女性向けの研修というのが初回だったので、「部長向け」「管理職向け」といった研修を入れてしまうと、管理職からも手が挙がらないのではという懸念がありました。ですので、あえて若手向けという提案だったのですが、内容がとても分かりやすかったので、全階層に導入させていただきました。結果としては大正解だったと思っています。

――私としても最初は心配したのですが、むしろ今は、ベイシアさんの方で上手に研修を使われて幅を広げていただいたイメージです。
講師の山崎さんは、全階層の女性向けということで内容を少しカスタマイズして、これまで3年連続講義に臨まれたのですが、実際研修を実施していかがでしたか?


山崎 やはり受講が希望制ということもあり、みなさん第1期からすごく前向きで、自分が「こう変わりたい」という意識がすごく強かったのが印象的でした。研修では、キャリアの資質を可視化する「CQファインダー」などのツールを使いながら、自分の内面を振り返りを行うのですが、受講生の皆さんは、自分を見つめ直した後で、ありのままの姿を受け入れ、そこから変わっていくというステップを段階を追ってやられていました。
 もう1点、みなさん本当にベイシアという会社が好きなんだなということも感じましたね。心から自分たちの力で会社を良くして、その先にあるお客様の未来を良くしていきたいという想いが滲み出ていました。ディスカッション中も、いろいろな意見が出たんですが、お互いの意見を受け入れながらも、みなさん主張はしっかりして、活発な意見交換をされていましたね。

――本当に年齢も部署も役職もばらばらの方が参加していたと思いますが、その点はまとめるうえで大変なことはなかったですか?

山崎 プログラム自体は若手向けのものをベースにしながら、カスタマイズして実施をしました。ただ、実際研修をやってみると、年齢や役職を問わず女性達が目指すところは一緒なんだなとこちらも学びがありました。自分のキャリアをプラスに変えていきたいという想いは誰でも一緒ですし、先ほどお伝えしたように会社やお客様のために頑張るという想いも一緒。目指すところが同じだから、そういう意味で年齢や役職というものも関係なしに研修を実施することができているんじゃないかなと思います。

――それはよかったです。冒頭でもお伺いしましたが、割石さんから見て、研修を終えた後の効果などがあれば、もう少しお聞かせください。

割石 やはり、研修前は比較的仕事や昇進にも受け身で、自信を持ちづらかった社員にも、能動的な意識変化が見られるようになったと感じています。先程申し上げたように、自発的に提案を行うといった行動変容が起きていますし、日々の仕事においても自分から取り組んでいくという変化が見られてきたというのを上司の方からも聞いてるので、やはり仕事にこの研修が生きてきているなと実感しています。

 あとは実際、昇進される方も複数出てきていて、結果として女性管理職比率の向上にも繋がっていますね。研修後、純粋に「ずっとこういう女性が学ぶ場が欲しかった」という声が出てきたりもしていて、導入してよかったと思っています。

――今年3期目が終わり、来年から4期目になりますが、社内全体で変わったところはありますでしょうか?

割石 もともと女性管理職比率が高くなかったので、男性の上司が女性に対してどうコミュニケーションを取ったらいいのかわからない、という声が多くありました。そう言っていた男性管理職がダイバーシティに理解を深める研修を受け、その後「自律型リーダー育成研修」に参加した女性部下と深くコミュニケーションを取れるようになり、 それがまたいい仕事に繋がっていくという好循環も生まれていますね。
 もう1つ目に見えて変わったのは、研修後に、管理職への昇進や異動などで女性が推薦されるケースが多くなって、 まさにタレントマネジメントという形で、一人ひとりの女性部下の様子を上司がとてもよく把握するようになっている証拠だなと感じます。弊社もまだ取り組みの途上ですが、ダイバーシティの研修を通じて、第一歩を踏み出せたことは確かだと思います。

――山崎さんは、3期連続で講師を務められましたが、その間に何か受講者の変化を感じますか?

 山崎 最初のキックオフ研修、そして、その後のフォローアップ研修と時間を空けて研修を進める中で、先ほど割石さんがおっしゃった保育園を年末年始に開園する企画が出るなど、フォローアップ時のディスカッションもどんどん活性化しています。特にベイシアさんの場合は、一期生、二期生という単位で、とにかく「みんなで一緒に学んでいこう」という雰囲気を感じ取ることができて、実際、研修を通じて受講生のみなさんが共に成長されていると思います。

 実際、研修後に昇進して店長になられたという方は、最初のキックオフの頃と比べて本当に大きく変わられた印象があります。キックオフでアクションプランを立てていただくのですが、それを忠実に実行されたんだと思いますね。本当に有言実行したからこそ、成長して昇進もできたんだなと。そんな意味でとても大きな変化を感じます。

――来年、4期目以降はこの研修の受講者を男性にも拡大したいということですね。

割石 もともとは男女限らずにリーダーシップ研修を入れたいと思っていました。この3年間、まず女性に特化していたのは、それまで女性の学びの機会があまりに少なかったからなんですね。そんな事情から、まずは女性だけにリーダーシップ研修を入れて、ある程度社内の風土が醸成されたタイミングで、性別問わず参加してもらいたいともともと構想していました。
 3年経って、ようやくダイバーシティからインクルージョンの段階に進み始めているので、女性という枠組みで育成する段階から次のステップに向けたステージに進めようと、男性の参加も考えはじめたところです。

――ダイバーシティからインクルージョンに移行するほどの成果が出て、本当に私もうれしいです。ダイバーシティにおいての今後の課題や目標はありますか。

割石 ダイバーシティには大きく分けて「表層的なダイバーシティ」と「深層的ダイバーシティ」の2つがあると考えています。「表層的なダイバーシティ」は、性別、国籍、人種などの目に見えやすい多様性。「深層的なダイバーシティ」は、 宗教だったり性的思考といった、見た目ではわかりにくい要素が入ったものだと捉えています。
 大枠で性別や年齢で括っても、やはり人間は一人ひとり違うんですね。だから、大切なのは社員個人に寄り添っていくことだと考えています。今日は女性活躍を中心にお話をさせていただきましたが、やはり一人ひとりの社員がどういう状況なのかを考えたうえで、課題解決をしていきたいと思っています。
 たとえば障害のある方に対する取り組みです。障害者の雇用は、法定雇用率を超えられていなかったのですが、2年前から、特定子会社を設立して、各種の取り組みを行い、目標数値を達成することができました。特定子会社であれば、例えば、労働時間についても障害のある方の状況に合わせて、所定労働時間を変えることもできます。これは1つの例ですが、本当に一人ひとりの方が活躍できる環境を会社がつくっていける取り組みはこれからも続けていきたいですね。


 

※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。

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