完璧なスーパーウーマンより等身大のストーリーを
育休時短の「長さ」がはらむ罠と、本当に必要なキャリア支援のリアル

 

アモーヴァ・アセットマネジメント株式会社
 
コーポレート・サステナビリティ部 大津 まどか様
ビジネス・レギュラトリー・コンプライアンス部 副部長  石本 あずさ様 (ジャパン・ウィメンズ・グループ リード)
総務部 部長  佐藤 正義様 (ジャパン・ウィメンズ・グループ リード)

 
聞き手 プレデント ウーマン総研所長兼編集長 木下 明子

アモーヴァ・アセットマネジメントでは、2030年までに女性管理職比率を30%にするという目標を掲げ、施策を着実に進めてきました。しかし、それでも中間管理職が少ないという、多くの企業が直面する壁にも直面しています。そこで同社は国際女性デー(毎年3月8日)に合わせ、プレジデントウーマン総研所長兼編集長である木下明子を招聘したセミナーを開催しました。

 課題 

善意の「ゆっくり休んで」は、全ての女性にとって良いことなのか?

 目的 

誰かが休むことを前提とした業務の仕組み作りや、成果を評価する軸の転換を

――3月の国際女性デーのイベントで、私にお声がけをいただいたきっかけや経緯について、改めてお聞かせいただけますか?

大津 はい、私たちの会社ではグローバル全体で「インターナショナル・ウィメンズ・グループ」があり、それに連なる形で「ジャパン・ウィメンズ・グループ」が活動しています。毎年3月の国際女性デーには、各地域で大きなイベントをやろうという方針がありまして、今年の日本主催のセミナーにご登壇いただきたく、木下様にお声がけさせていただきました。

 過去のセミナーのゲストを振り返ると、2024年は大手メーカーの男性経営者の方、そして25年は公共機関の若いキャリア女性の方に来ていただいたんです。過去2回とも素晴らしいお話をいただいた一方で、今年はこれまでのゲストとは少し属性を変えたいと考えました。弊社の現在の状況を鑑みると、より身近な「リアルな女性活躍」についてお話しいただける方が必要だったからです。

 ご著書を拝見し、社員へ告知する際に『親しみやすい』『話題にしやすい』といった、社内を巻き込むためのフックとなる多彩なバックグラウンドをお持ちであることを知りました。そこで木下様が適任ではないかと思い、私が推薦させていただいたのが始まりです。

――ありがとうございます。私とは一年半ほど前、とあるDEI関連のイベントでお会いして、名刺交換をさせていただいたのがきっかけでしたよね。

大津 そうなんです。あの場で、初対面とは思えないくらい、本当に気さくにわかりやすいお話をたくさんしていただいたのが忘れられなくて。私が日頃から感じているDEIについての疑問についても、ポンポンと小気味よく打ち返してくださり、その印象が強く残っていました。このライブ感や雰囲気は、弊社の社員が話を聞くにあたってすごく新鮮で、きっとみんなこういう語り口が好きだろうなと感じたことも大きな理由です。
 
 正直に申し上げますと、社内でゲスト検討した際、「木下様はちょっとエッジが効きすぎているのではないか?」という声がなかったわけではありません。ですが、事前の打ち合わせで、こちらの意図を深く汲み取り、資料もどんどんアップデートしてくださるプロフェッショナルな対応を見て、運営メンバー全員が一気に安心したんです。それで、当日は何の心配もなくお迎えすることができました。

石本 私が木下様にお願いしたかったのは、働く女性をターゲットにした雑誌の元編集長としての視点です。当社はすでにある程度は女性活躍を進めていますが、だからこそ、現状に満足せずさらに一歩進めるためのヒントが必要でした。木下様なら、今までにない新しい切り口で、役立つ施策やメッセージをいただけるのではないかという期待がありました。

佐藤 私も石本と同じ意見です。企業内で実績を積まれただけでなく、雑誌やオンラインメディアを通じて社会に新しい価値観を提示し続けてきた方からのメッセージは、社員に響く力が大きいと考えました。
 
 実は、事前の打ち合わせでお会いした際、木下様の頭の回転の速さとあふれ出るアイデアに圧倒され、内心「本番で参加者が木下様のスピードについていけるかな?」と少し心配した部分もありました。ですが、本番では参加者の目線に合わせ、非常に丁寧にお話しくださり完全に杞憂に終わりました。社内の人間だけではどうしても凝り固まってしまう視点に対し、心地よい刺激を与えていただけたと感謝しています。

「ゆっくり休んでいいよ」は本当に優しさなのか?

――当日はオンラインを中心に、グローバルも含めて100名ほどの社員の皆さんが視聴してくださったと伺いました。実際の講演を終えて、社内の反響やみなさんの感想はいかがでしたか。

大津 まず、多角的なデータに基づいた視点と、ご自身のリアルな体験談を交えてお話しいただいたことで、参加者がグッと引き込まれていました。特に「具体的でよかった」という声が多かったのが、「家事や育児を女性ひとりで抱え込まず、外部のサービスを賢く頼ろう」というお話です。ご自身の体験から、外注を上手に活用するメソッドまで語っていただき、非常にリアルでした。

 また、管理職のメンバーからは、「これまで良かれと思って、出産や育児を控えた部下に『体調第一だから、ゆっくり休んでいいよ』と伝えるだけで終わっていたが、それだけでは不十分だと気付かされた」という声もありました。休ませるだけでなく、キャリアの継続や復帰を見据えたサポートこそが重要であり、本人の意思をしっかり確認して解像度高く対話を重ねる必要がある。つまり、従来の「優しさ」の捉え方そのものを見直すきっかけになったという、深い振り返りがあったようです。

――まさにそこなんですよね。周囲は優しさのつもりで「大変だからゆっくり復帰して」と言いがちなのですが、結果的にそれが、女性のキャリアの歩みを阻害する「マミートラック」へと誘導してしまうことがあるんです。

石本 
今回、木下様ご自身が「あまり体力がない」と明かしてくださったことも、体力に自信がなくてもキャリアと子育てを両立できるのだと、多くの社員の安心感に繋がったようです。また、「育休は長く取ることだけが正解ではない」「同僚や部下に『ゆっくり育休を取って』と声をかけることが、必ずしも本当の優しさとは限らない」という点は、今回の講演で初めてハッとさせられたという意見が多くありました。

佐藤 社内からは「気持ちがスッと軽くなった」という感想をたくさん聞きました。どこか遠い世界の話に感じてしまう「完璧なロールモデル」ではなく、身近に感じられる「経験者談」として語ってくださったことが、参加者の心に深く刺さったのだと思います。スーパーウーマンのサクセスストーリーではなく、リアリティあふれる工夫や選択肢を見せていただけたことが、社員一人ひとりの安心感や励みに繋がりました。

大津 実は、われわれの部門(コーポレート・サステナビリティ部)の海外のカウンターパートからも大きな反響があったんです。弊社はアセットマネジメント(資産運用)会社ですので、単なる感覚的な精神論ではなく、「経営戦略としてのダイバーシティ」という観点から、豊富なデータや図表を用いて日本の現状をロジカルに解説してくださったことが響いたようです。投資家目線での論理的なアプローチは、海外メンバーにとっても非常に納得感が高く、大好評でした。

ライフイベントの前にキャリアを意識することができた

―― 今回のセミナーには、若い世代の社員の方々も多く参加されていましたか。

大津 
はい。昨年、2025年に入社したばかりの若手女性社員から、すごく印象的な感想をもらいました。「今後、ライフステージの変化によって、自分にもこうした課題が訪れるのだと事前によく理解できた。いざその時が来たら、今日の木下様のお話を思い出して、スムーズにキャリアを繋いでいきたい」と言っていたんです。

佐藤 ライフステージの変化を迎える前に、社内でこうしたリアルな議論に触れる機会を作れたことは、若手の育成やリテンション(人材定着)の観点からも大きな意義があったと感じます。

 一方で、今回の講演を通じて、改めて「国の制度と現場の実態とのギャップ」についても深く考えさせられました。我々は業務上、アジアの拠点であるシンガポールのメンバーとコミュニケーションを取ることが多いのですが、あちらの産休・育休期間は一般的に日本よりはるかに短いですよね。

――そうですね。シンガポールに限らず、多くの国で3~4カ月がスタンダードだと思います。私も20年ほど前に中国で働いていた経験があるのですが、産休は基本的に3ヶ月程度で、時短勤務などの制度もありませんでした。

佐藤 
ええ。ですから、日本の「1年や2年も休める」という制度自体は非常に手厚く見えるわけです。問題は、その手厚い制度を利用して「いざ復帰する」となった際の、会社側の受け入れ体制や、本人のキャリアが分断されてしまうというギャップのほうにあります。長く休める制度がある国だからこそ、マネジメント側が復帰後のキャリアをどうサポートしていくかが、よりシビアに問われているのだと痛感しました。

石本 制度の表面的な数字だけを見て「日本は進んでいる、手厚い」と安心するのではなく、その運用の実態を見なければいけないということですよね。改めて、仕事に対する姿勢や子育てへの思いは本当に人それぞれであり、「母親ならこうだろう」といった一律でステレオタイプな対応では限界があると強く感じました。

女性管理職30%の先に目指す「休み方改革」

―― 今回の気づきを踏まえて、貴社としての今後のDEIや女性活躍における課題、あるいはこれから変えていきたい部分について教えてください。

大津 
今回のセミナーには人事部門のトップも参加していたのですが、終了後に「人事で考えられる施策やサポートについては、しっかりと持ち帰って検討します」という心強い言葉をもらいました。まずはここに大きな期待を寄せています。

 私たち「ジャパン・ウィメンズ・グループ」の第一の目標は、社内の「文化醸成」です。しかし、私たちが声を大にして叫ぶだけでは文化は定着しません。これからは、醸成された文化を人事の具体的な制度へと落とし込み、各部門のマネージャーとメンバーとの関係性の中にまでしっかりと浸透させていくことが、次の大きな課題だと考えています。

佐藤 まさにその通りで、これからの課題は、従来の「働き方改革」から一歩進んだ「休み方改革」にあると感じています。特に管理職層は、誰かが休むことを前提とした業務の仕組み作りや、成果を評価する軸の転換を、これまで以上に進めていく必要があるのではないでしょうか。

 育休や介護休暇を取りやすい環境を作ることは、ひいてはすべての社員の公平な働く環境を整えることにも繋がります。単なる制度としての支援に留まらず、「休みの質」を高めるマネジメントを行うことこそが、ダイバーシティを体現する推進力になるはずです。まずは現場で何ができるのか、具体的に模索していきたいですね。

石本 以前からの課題でもありますが、当グループが主催するイベントの参加者が、どうしても固定化しがちであるという点は改善していきたいです。また、女性活躍施策については、会社や人事部主導の取り組みがすでに充実してきているため、当グループが担うべき役割を改めて明確にし、差別化を図ったほうがより有効だと感じています。今後は、社内にある他のサステナビリティ・グループとの協働ももっと進め、点ではなく「面」での活動へと広げていきたいです。

――素晴らしいビジョンですね。グローバルな視点を持ちながら、現場の「百人百通り」のリアルな課題に真摯に向き合おうとされていることに、非常に大きなポテンシャルを感じます。今回の講演が、皆様の目指す「女性管理職比率30%」、そしてその先にある『誰もが生産性高く働ける文化醸成』への確かな一歩となることを、心から応援しております。本日は本当にありがとうございました。

※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。

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