学研ホールディングスは、女性活躍を加速化させるべく新たにダイバーシティ&インクルージョン室を新設しました。2024年5月10日、学研のグループ会社の役員を一堂に集めた役員会で、プレジデントウーマン編集長・木下が、経営戦略としてのダイバーシティというテーマで講演を行いました。そこに至るまでの経緯や、講演後の感想、効果について、ダイバーシティ戦略担当執行役員にインタビューしました。
課題
女性社員比率は高いが、
女性管理職の比率が上に行くほど下がっている
目的
全グループの経営陣に、D&Iについての理解を深めてもらい
各社内に浸透させる
――今回は、グループの役員会にお邪魔して、全関連会社の役員層への講演をさせていただきました。お声がけいただいたきっかけは何だったのでしょうか?
D&Iへの取り組みは以前から進めていたのですが、2024年3月1日からダイバーシティ&インクルージョン室が新たに立ち上がり、取り組み内容を刷新することになりました。当グループは、女性社員比率は全体の半数以上と男性より高く、課長職の比率はすでに3割を超えていますが、上に行くほど管理職比率は下がり部長職となると15%程度にとどまっています。この状況を打破するために新体制で立ち上がったのです。
2024年からの新たな体制に向けて、昨年からどういう考え方が日本における最新のトレンドなのか調査しようと、いろいろ情報収集をしていたんです。そんなとき、2024年に入ってプレジデント総合研究所のランチウェビナーで、『女性管理職比率30%を阻む壁を突破する! 成果に繋がる現場目線の「女性活躍推進3つの秘訣」』と「経営戦略としてのダイバーシティ」の回を聞き、ぜひもっと深く、続きを聞いてみたいと思いました。
そして、ご著書『図解!ダイバーシティの教科書』を読んでみて改めて目から鱗が落ちた部分があり、グループで講演などの企画があれば、ぜひ推薦しようと思っていたのです。
――拙書を読んでいただきありがとうございます。本の内容で、どのあたりが目から鱗だったのでしょうか?
今、多くの日本企業が導入している長期間の育休や時短など女性に優しい制度を整えすぎていることが、女性のキャリアにとって必ずしもよいわけではない、と書かれていた点にハッとさせられ、ぜひグループの経営陣に知ってもらいたいと感じました。
私が出産した20年近く前は、育休は1年以内だったんですね。出産前はずっと自分の希望していた編集の仕事をしていたのですが、まだ若いころ、育休から復帰する際には必ずしも編集に戻れるとは限らないと言われており、「編集職として採用されたのに、女性は結婚や出産で大きくキャリアを変わらざるを得ないのか」とひどく驚いたことを覚えています。
結果的には育休明けまで元の編集部が待っていてくれたので戻ることができました。それくらい当時はいろいろな意味でライフイベントを迎えた女性にとっては厳しい時代であったと思います。
今は、育休は法定では最長2年、弊社は生まれ月によっては最長2歳5か月まで取得が可能となっています。1年以内に保育環境を完璧に整えておかないと復帰できない、と夫と共に背水の陣で日々過ごしていた当時の自分を思うと、こういった制度の拡充は女性活躍にとってよいことだと思っていました。けれどもご著書を読んで、単に育休や時短期間を延ばせばよいというものではなく、女性たちの「キャリア形成」という軸で考えたときには、別の視点からも考えなくてはいけないのではないかと、はっとしたのです。
女性がライフイベント後も働き続けることは当社でも普通になりましたが、今後はライフイベントを超えてキャリアを積むことを支援する際の方向性は、もう一段上から考えていかなくてはいけない、と思ったのです。制度は充実させ、使いたい人はその制度を使える一方で、使わなくてもやっていけるようにサポートをしますということを、ワークライフバランスの制度と共に伝えていく必要があると思いました。
――そこが実は本の中で一番伝えたい部分だったので、ご理解いただいてとてもうれしいです。実際、講演を聞いていただいた経営層の皆様の反応や感想はどうでしたか?
事後アンケートを取りましたが、「(内容について)理解できた」と答えた方が、97.9%、「役に立った」という意見も86.4%で、とてもいい反応だったと思います。D&Iについて理解不足の役員も今回の講演で腑に落ちたのだと思います。D&Iが経営にプラスになる、D&I推進なしにグループの発展がないことが理解できたという声もありました。「経営陣の取り組む姿勢が一番大事だとわかった」「経営の意識、風土、従業員の理解がなければどんな施策も意味をなさないとわかった」といった意見も多かったです。
あとはアンコンシャスバイアスについても、組織だけでなく自身の中にもあったことに気づいて、意識を変えていきたいという感想が届いています。
そして、最後に木下さんからメッセージとしていただいた「会社は女性の家事育児でなく、キャリアを応援してほしい」という言葉が胸に刺さったという声は、アンケートに複数の参加者が書いていましたし「勘違いの優しさを押し付けていた」「この視点は持っていなかった」と、講演後の懇親会でもその点が印象的だったと複数の参加者が話していました。
具体的なデータや事例をたくさん盛り込んでいただいたことも説得力を増したようです。
「女性に対してこういった(昇進意欲をそぐような)発言をしてないですか?」というありがちな例としてあげていただいた発言について、社内で同様の発言を実際に聞いたことがあるという感想がありました。また、管理職女性の幸福度の高さなどのデータは、実際、女性に昇進を打診するときに使いたいといった意見もありましたね。グループ全体として、管理職になった時のメリットをきちんと伝えていけたらよいなと思います。
参加した女性役員からも、「自分が管理職になったときに部下に大変そうなイメージを植え付けてしまったかもしれない。今回のお話を聞いて、リーダーはすごく自由に動けるんだとか、もう少し管理職の魅力を伝えておけばよかった」という声も上がっています。これも今後、実行してもらえたらすごくうれしいですね。
――少しでも経営のお役に立てたなら本当によかったです。今後、グループ全体の取り組みとしてやっていかれたいことはありますか。
今、グループ会社の事業は出版から教育、介護など、本当に多岐にわたっています。特に塾など少し特殊な勤務時間の会社を率いる役員層からは、同業他社の取り組みがもう少し知りたいといった声も出てきていました。
ダイバーシティ&インクルージョンの必要性は、アンケートの通りほとんどの役員が理解したと思いますので、これから具体的にスタートして各社がどうとらえ実行していくのか。そこが一番の課題かなと思います。各社アンケートによると、D&Iにおける一番の課題はまずは女性活躍ですが、20代30代などの若手の活躍、働き方改革、外国人や障碍者の雇用など、早急にすすめていかなくてはなりません。今回の講演を皮切りに、どんどん進めて行きたいと思っています。
効果
経営陣が自らのアンコンシャスバイアスに気づき、D&Iが会社の発展に
不可欠だという意識変容が起こった
※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。
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