家事育児の「外注」という選択肢が示されて、育児とキャリアとの両立への道が開けた

 


<研修企画・運営の荒川さん(左)、元木さん(右)>

 三井住友海上保険株式会社
モビリティマーケット戦略部 企画チーム
課長代理(人財育成担当) 元木様

聞き手:木下明子(プレジデント ウーマン編集長) 

三井住友海上火災保険のモビリティマーケット戦略部は、2024年2月、ライフイベントとの両立についてオンラインで全国のモビリティマーケット(営業)部門向けに研修を行いました。外部講師としてプレジデント ウーマン編集長・木下が登壇しましたが、担当者は、その内容が社員にとって「人生を変えるくらいの激震」だったと語ります。講演前後の社員の意識変容についてインタビューしました。

 課題 
営業部門のラインマネージャーの多くは男性で、
ライフイベントと両立しているロールモデルが少なく、
キャリアを描きづらい女性が多かった

 目標 
女性たちがライフイベントを越えてもキャリア形成ができるよう、
当事者と上司の意識を変革する

部門でライフイベントと両立しているラインマネージャー層が少なかった

――2023年10月に御社で「両立支援」関連の講演をさせていただきましたが、それを聞かれて、今回お声がけくださったということですね。(2023年10月の「両立支援」関連の講演記事はこちら)

 はい。私自身、様々なライフイベント迎える女性の一人として、とても印象的な内容でした。10月に講演を聞いた際、木下さんご自身の経験に加えて、具体的なデータを交えながら女性の指導法などを伝授いただき、当事者の女性たちだけでなく、上司にもとても刺さったようでしたので、自身が人財育成を担当している部門向けの研修で改めて依頼させていただきました。
 担当部門では、過去、営業担当やラインマネージャー層は男性で構成され、女性は事務担当が中心だったものの、現在では営業担当の半数以上を女性が占めています。ただし、女性のラインマネージャー層の割合はまだまだ少なく、これからライフイベントとの両立を迎える女性や、管理職を目前とした女性が増えていく等、過渡期を迎えている一方で、働き続けたいけれどもラインマネージャー層を目指したいという女性は少なく、そもそも家事育児と両立しながら男性上司のようには働けない、ロールモデルがいないという声が多かったのです。
 そこで、「キャリアビジョンを描きづらい」「女性としてのライフイベントと仕事の両立に不安がある」と考えている女性社員に対して、新たなノウハウの発見・キャリア形成の一助になればと思い、木下さんに依頼しました。また、女性のキャリア形成には、上司の理解も必須と考え、対象者に含めました。

――今が過渡期だと思うのですが、そんな中で聞いていただいた方々の反応はいかがでしたか?

 上司は、女性の不安に対して解決策を出すよりまず話を聞いて共感すること、そして「大丈夫」という言葉をかけてあげることが大切だと言っていただいて、女性たちからは「泣きながら聞いていました」という声が複数上がっています。
 やはり男性の思考と女性の思考というのは、相対的に見てある程度違いがあると思っています。たとえば、研修を企画する際のヒアリングで、女性からは他部署の方と意見交換会をしたいと声が寄せられることが多い。理由は「自分と同じように頑張っている人たちが全国にいるのだとわかってお互い共感しあうことで、勇気がもらえて前向きになれる」とのことで、個人差はあると思うものの、男性社員よりも女性社員からのニーズが高い傾向にあり、「聞いてほしい」「共感したい」という固有心理かもしれません。
 木下さんが講演でおっしゃっていたように、上司自身が、「いろんな価値観や考え方があっていいんだよ」と一度受け止めてあげれば、まずはそれだけで「この上司は寄り添ってくれた。だから頑張ろう」というふうに多くの女性は感じると思います。けれど、昭和的な働き方で仕事だけバリバリやってきた男性上司が、一方的に自分の成功体験をアドバイスしても「私にはそんな働き方はできない」となってしまいがちです。

——「共感」能力が乏しい組織では、女性は育ちにくいですよね。

 はい、それと根強いアンコンシャス・バイアスですよね、講演でもお話しいただいたように、女性に本来マネジメント能力がないわけではなく、身近にいるマネージャーは男性が多く、時代の背景もありキャリアとライフイベントを両立してこられた方がほとんどいないので「こうなりたい」と思えるロールモデルがいないとの声が多いです。木下さんのように両親が共稼ぎだったという方もほとんどいない環境だと、やっぱり“昭和の固定概念”に振り回されがちです。子供の頃は、専業主婦やパート主婦で家事育児をメインにするお母さんを見て、やはりどこかで自分もそうなるんだと思っていた女性は多いと思います。
 そんな中で大人になり就職して、これからは女性も働き続けるんだという意識にはなっていると思いますが、そこを一歩超えたキャリア追求や昇進というところが見えない。自分が第一号になればいいと言われても、先を行っているロールモデルが周囲には少ないなかでその勇気が持てる女性ばかりではないと思うんです。だからこそ、上司がきちんと不安に寄り添ってあげて、キャリアを少しでも形成したい気持ちがあるなら上手に引き出してあげて、一緒に将来を考えていく必要はすごくあるなと思います。
 

ハードルを越えてキャリアを追及するイメージが湧いてきた

――受講後に、社員の行動変容につながったという点はありましたでしょうか?

 私の周りを見ていても共稼ぎの場合、どうしても育児家事の負担は女性に偏りがちですが、ライフイベントを越えてもキャリアをつなげていくために育児家事を「外注する」という発想が、社内に限らず日本全体でまだまだ浸透していないと思います。周囲の育児中社員に聞いても、実際使っている方は殆どおらず、どうも外注というと「お金持ちがするもの」というイメージが強かったです。
 しかし、今回、木下さん自身がずっと外注を使っていらっしゃって、さらに使い方のコツまで丁寧に教えていただいてすごく身近に感じた社員が多かったようです。そのおかげで、育児というハードルを越えてキャリアを追求するイメージが湧き、「頑張って働き続けたい」、「ラインマネージャーを目指したい・目指してみてもいいかも」と感じた女性が増えたのではないかと思います。上司からも、外注という選択肢を示して両立している社員をマネジメントすればいいんだとわかって自信がついたという声が上がっています。
 この点で本当に社員の人生を変えたというか、全国に「激震」が走ったと言っていいと思います。私自身も、育児との両立について不安になる部分はあったのですが、外注を使う選択肢を得たことで全て抱え込まなくていいんだと不安が払しょくされました。10月の講演を聞いて両立を視野に夫の実家の近くに引っ越したり、時短家電を導入したりして、QOLが上がったと感じます。

――早速、行動していただけたようですごくうれしいです。今後の課題などはありますか?

 今回は任意出席だったので、仕事の都合などもあって上司は半数程度の出席だったのですが、研修後、アンケートの結果もほとんどが前向きな回答だったのと、出席者からは「管理職はもちろん、性別や役職問わず全社員に聞いてほしい」という意見が強かったので、アーカイブ映像を展開しており、今後も全国に広めていけるようにと考えています。
 上司にも今悩んでいることについてアンケートを取ったのですが、多様な方がいる時代だからこそ悩んでいて、そこがわかったのもよかったです。男性上司も悪気はないのですが、やはり「女性=守らないといけない対象」と考えている方が多く、木下さんが「上司は女性の家事育児を応援するのではなく、キャリア支援という軸をぶらさずにマネジメントすれば大丈夫」と言ってくださって、すごく腑に落ちたという意見がたくさんでていました。
 男性と女性は性差や価値観の違いで、お互い悪気はないものの、わかりあうことが難しい場合もあると思います。今回の講演を通じて、当部の部長も「お互い理解しあうことができたことが一番よかったのではないか、育児を頑張る女性のモチベーションも上がっただろうし、上司も女性の気持ちが聞けてよかった」と強く言っていたので、本当に良かったと思います。

※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。

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