「育休から復職して長く働く」から、
「育児をしながらキャリアを追求する」というステージに上がった

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  • 三井住友海上火災保険株式会社
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  •  人事部 課長 長嶋千絵美様

  •  聞き手:木下明子(プレジデント ウーマン編集長) 

 三井住友海上火災保険が、ライフイベントとキャリアの両立を目的に、定期的に開催しているイベント「いくじのいずみ」。2024年2月、プレジデント ウーマン編集長・木下明子が「無理のないキャリアとライフイベントの両立」というテーマで登壇。講演を通してどんな気づきがあり、社内がどう変わってきたかについてインタビューしました。

 課題 
育休復帰は当たり前になっていたが、その後のキャリアを積極的に
追求するという社員が少なかった

 目的 
キャリアとライフイベントの両立について、
上司と当事者両方の意識を改革する

最初は、「社員が驚くかも」という懸念も大きかった

――今回呼んでいただいた、育児と仕事の両立を目的としたイベント「いくじのいずみ」はどういった形で立ち上がったのでしょうか?

 当社は「ママプロ」という育児と仕事の両立社員を支援するプロジェクトを行っておりまして、産前、産・育休中、復職後という3段階に分けて支援をしています。2021年までは最後の復職後のところで、希望者のみに当事者だけで討論会を開催していたのですが、復職直後の当事者、かつ希望者のみでの開催で、果たしていいのだろうかという疑問が出てきたのです。そこで2022年度にゼロベースで考え直すことにして、人事部だけで企画するのではなく、第一線で活躍しながら両立している方々の意見も取り入れたらどうかという方向で社内の意見も聞きながら話し合った結果、2022年に「いくじのいずみ」という両立支援プロジェクトが立ち上がりました。
 復職後、しばらく経っている方でも参加いただけるなど、間口を広げたセミナーとして開催していくことになりました。

――お声がけのきっかけは、『図解!ダイバーシティの教科書』を読んでいただいたことと伺っています。どんな部分が御社の抱える課題とマッチしていたのでしょうか?

 当社ではすでに育休から復職することは当たり前になっていますが、「いくじのいずみ」を開催しているメンバーの女性の中から、復職に当たって抱えている大きな問題として「育児をしながらキャリアを重ねていく」ことについて、本当にできるのか迷いがある、という話が挙がりました。さらに、イベントを何度か開催する中で、参加者に今後聞いてみたいテーマについてアンケートを取ったところ、1番目か2番目に必ず「キャリア」に関してのテーマが挙がってきており、「両立とキャリア」というテーマで次回は開催したいなと思っていたときに、ブックシェアリングイベントでご著書『図解!ダイバーシティの教科書』を読ませていただきました。まさにぴったりのテーマについて書かれていたのでお声がけさせていただきました。

――具体的に講演内容について打ち合わせをさせていただいた際、「育休や短時間勤務は可能な人は、なるべく早く切り上げたほうがいい」とはっきり申し上げたら、少し不安になられたようでしたね。

 当社は育休後、短時間勤務を取る女性社員が多いので、「フルで復帰したほうがいい」という木下さんの語り口が少し強すぎる印象を与えるのではないかという懸念がありました。けれど、講演当日に使用するスライドを拝見して、そこに盛り込まれた女性管理職の幸福度などのデータなどがとても説得力があり、これならすごく共感を得られそうだなと思う内容だったので私自身も聞くのが楽しみになりました。
 最初は育児中の女性とその上司だけを対象にしようと考えていましたが、打ち合わせ時に木下さんから「これから出産を考える若い女性も対象にして、若手のうちから意識付けをしたほうがいい」というアドバイスをいただいて、対象者を広げました。手上げ制で募集して当初は最大100人くらいの定員で考えていたのですが、予想をはるかに上回る130人超の社員が参加を希望してきたので、急ぎ定員の枠を広げることにしました。 
 当事者の女性たちだけでなく、両立するには上司の理解が非常に大事だというのは木下さんもおっしゃっていましたが、各種の社内アンケートでも同様に、たくさん出ていました。なので、今回は初めて上司も参加できるようにしたのですが、「こういうセミナーを自分も聞いてみたかったのでうれしい」という形でお礼のメールをもらったりしました。結果、管理職層の参加が3割程度という結果になり、関心の高さがよくわかりました。
 

――両立している方が一気に増えて、上司の方も悩んでいるんでしょうね。実際、事前質問を取りましたが、上司と当事者の方両方からすごくたくさんいただいて、講演後の質問も当初は「あまり出ないかもしれない」とおっしゃっていたのに、すべてお答えできないほどの数でしたね。

 おっしゃる通りで、あんなに質問が出るとは思いませんでした。打ち合わせ時は、木下さんのはっきりした口調に驚く社員がいたらどうしようと思っていたくらいですが、すごく皆さん熱心に聞いて、質問もたくさん出て私がびっくりしたくらいです。もっと質問時間をたくさん取っておけばよかったと後悔しましたね。

 何より、驚きだったのは講演後のアンケートで、当事者の方から「短時間勤務じゃなくてフルタイム復帰が可能か試してみたい」という声を多くもらったことです。フルタイムでの復帰を迷っている方にとって、今回の講演が背中を押してくれる機会になったと思うと、驚きと共にとても嬉しかったです。 

 これまでの両立支援関連の研修やイベントは、どちらかというと両立を継続することや、両立するにあたっての経験談・工夫といった部分にフォーカスが当たっており、両立が大変だから離職を考えてしまいそうな方に対して、そうならないための意識の持ち方や工夫をお伝えするものでした。今回の反応を見て、運営側として、当社の両立に対する考え方のステージが1つ上がり、これまでの「復職して働き続ける」というステージから、「仕事と育児を両立しながら、キャリアも追求する」という段階にきたのだ、ということを非常に強く感じました。

「会社はキャリアを支援する場所である」という軸をブレさせない

――管理職向けの内容もお話しさせていただきましたが、反応はいかがでしたか?

 管理職から来たコメントとしては、真の意味でDE&Iを進めていくにあたりアンコンシャス・バイアス、いわゆる「無意識の偏見」に気を付けないといけないと改めて思ったという声です。多くの上司は、女性たちは、出産後は仕事やキャリアより育児の方に力を入れたいだろうというバイアスがあったと思いますが、今回の講演を聞いて、まさに多様性、いろんな考えがあってそこを尊重しなくてはという考えになったという声が寄せられています。
 とにかく対話が大切なのだという点も理解が深まったようです。あとはもっと生産性を高めるために環境整備を重視して仕事をしたいという声も挙がったりして、本当に管理職にとっても大きな気づきを得てもらういい機会になったと思います。

――家事・育児で親御さんなどの親族に頼れないなら、外注を活用したほうがいいというお話もしましたが、使ってみたいという声が挙がっていましたね。

 当社の福利厚生の一環で、ベビーシッターの補助に関するメニューもがあるのですが、利用している方は少数です。今回、長期間の育休・短時間勤務のコストと外注コストの試算を見せていただき、外注のコツも教えていただいたことで、その重要性に気付いたという声は複数ありました。
 家事代行については、現在福利厚生としての構えは無いのですが、興味がある人を集めた座談会を開き、会社が少し費用を負担してトライアルを実施いただき、利用した感想など簡単なアンケートを返してもらうという活動を行いました。まだ小規模のトライアル段階ですが、会社が初期費用を少し補助してあげることで外注利用のハードルが下がったりですとか、使ってみたらよかったという意見をもらったりして、両立にあたって使えるツールが一つ増えたという形になるといいなと考えています。

――素晴らしい取り組みですね。今回は「無理のない両立」がテーマですので、少しでも女性たちが楽になるとうれしいです。講演からしばらくたって社内で何か行動変容は起きましたか?

 繰り返しですが、やはり短時間勤務からフルタイムに戻すことを考えたいという声が複数挙がっています。4月というのは一つの節目になるので、今回の講演でパワーと勇気をいただいて変化が起きるのではと期待しています。
 あとは、たまたま自動車営業推進部の人材育成担当者が講演を聞いていて、同部でも2024年に木下さんに講演を依頼させていいただきました。人事部の主導ではなく、第一線主体で、育児とキャリアを両立していくための講演を開催するというのは、新しい動きだなと感じています。(自動車営業推進部での講演記事はこちら)
 一方で、短時間勤務の期間を延長してほしいといった声もまだあるのですが、木下さんがおっしゃったように、会社はあくまでキャリア形成を支援する場所だという点を忘れずに、今後、各種施策を検討していきたいと考えています。その一環として2024年度から、柔軟な働き方の選択肢を拡充する観点で、22時までは勤務できる「分割勤務(一日の所定労働時間を分ける働き方)」という制度を導入予定です。この制度があれば、短時間勤務でなくても保育園のお迎えなどで中抜けした後に、自宅で業務を行えます。このような形で、育児をしながら普通にキャリアを追求できる仕組みづくりを強化したり、管理職層の意識を変えていくといったことを見え据えた施策を検討、実施していきたいと思っております。

※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。

「ダイバーシティ研修」についてはこちらから
https://pri.president.co.jp/diversity

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