株式会社TASAKIホールディングス
柏倉 良子様 株式会社TASAKIホールディングス 執行役 Global人事本部 CHRO
聞き手:プレジデントウーマン総研 所長 兼 編集長 木下明子
「女性役員養成1Dayキャンプ」は、プレジデントウーマンの知見から生まれた、女性役員を増やすためにスタートした講座です。キャンプでの学びを経て、TASAKIの執行役Global CHRO(Chief Human Resources Officer、以下CHRO)へ就任された柏倉良子氏にプレジデントウーマン総研 所長 兼 編集長の木下明子がインタビューしました。「役員とはどういう世界か」「コーポレートガバナンスをいかにキャリアへ引き寄せるか」——当事者のリアルな体験と変化から、自社の女性リーダー育成を成功へ導く実践的ヒントを探ります。
――本日は、以前ご参加いただいた「女性役員養成1Dayキャンプ」について、当時の参加のきっかけやその後の変化など、色々とお伺いできればと思っております。参加してみようと思われた最初のきっかけから教えていただけますでしょうか。
柏倉 女性役員養成1Dayキャンプを受講したのは2025年2月に開催された第2期でした。当時所属していたタペストリー・ジャパンでの人事部長としての立場や、それ以前に勤めていた外資系の会社も含めて、私のこれまでのキャリアを振り返ってみますと、いわゆる「取締役会・執行役会」という明確な建て付けが日本に存在する企業で勤務した経験が、実は一度もなかったんですね。
ですので、まず純粋な好奇心として「そもそも役員ってどういう世界なんだろう?」「取締役会や執行役会の中ではどういう会話がなされているのだろう?」というところに強い興味があった、というのが一つの大きな理由です。
それに加えて、私の人事関係者のネットワークや先輩方との繋がりも大きく影響しています。ちょうど私より一回り上くらい、60歳の定年を迎えられる手前であったり、あるいはそこを超えられたような先輩方とお話ししている中で、フルタイムの人事としてのキャリアを一区切りつけられた後、社外取締役という道を歩まれている方が何人かいらっしゃったんです。
そういう方々の姿を見ていて、「もし自分も10年前後先に社外取締役という形で企業に関わる道があるのだとしたら、その手前の段階で一体何を経験していなければいけないのだろうか?」と考え始めました。そこから、根本的な「役員とは何なのか」という問いや、コーポレートガバナンスという領域に対する関心が急速に高まっていったのです。これが参加を決めた理由ですね。
―― なるほど。「女性役員」という切り口に特化したセミナーであった点についてはいかがでしたか。
柏倉 当時タペストリーに在籍していた際、一般的な外資系企業でいうERG(エンプロイー・リソース・グループ=社員の自主的ネットワーク)にビジネスの視点を加えた「EBRG(エンプロイー・ビジネス・リソース・グループ)」という取り組みが社内にありました。私はその中の女性グループにおけるアジア太平洋地域のリーダーの一人を務めさせていただいていた経緯があります。そうした背景もあり、「女性という観点から役員というポジションや役割を捉え直したとき、経営課題に対して何か特色のあるアプローチができたり、女性ならではの視点で貢献できる部分があるのかもしれない」と感じていたことも、受講の後押しになりました。
――実際に1日みっちりと講座を受けられて、どのような感触や感想を持たれましたか。
柏倉 まず何と言っても、講師を務められた野田先生のエネルギーと圧倒的なキャラクターですね。人間力があふれ出ていて、即座にファンになりました。いわゆる男女雇用機会均等法がまだなかった時代から第一線で働き、現在も現役バリバリで活躍され続けている。その揺るぎない熱量と存在感に、受講した瞬間から強く引き込まれました。
それと同時に感銘を受けたのが、一見すると難解でとっつきにくく感じられるようなコーポレートガバナンスの理論や概念を、本当に分かりやすく噛み砕いてお話ししてくださる点です。高尚なテーマが一気に身近なものとして腹落ちし、「コーポレートガバナンスって、こんなにも自分の仕事に直結しているんだ」と直感的に感じられたのが一番の感想です。
知れば知るほど面白くなって、「あ、私がこれまで人事でやってきた様々な施策や組織づくりって、たとえ役員というタイトルではなかったとしても、取締役会がない会社であったとしても、本質的にはすべてコーポレートガバナンスそのものだったんだ!」と、自分の過去のキャリアとガバナンスがカチッと噛み合って腑に落ちる瞬間が何度も訪れました。
―― 講座には様々な業界から、すでに役員をされている方や経営者の方も含めて多種多様な女性が集まっていましたね。そうした集合研修ならではの空間や他社からの参加者との対話はいかがでしたでしょうか。
柏倉 業界も職種も実にバラバラで、共通しているのは「女性であること」だけ、という環境が非常に新鮮でした。それぞれの立場から持ってらっしゃる知見や独自の視点が全く違っていましたし、何より「会社の成り立ち」のバリエーションが広かったことが印象的です。
どっぷり外資系でキャリアを積んできた方もいらっしゃれば、歴史ある日本のオーナー企業で指揮を執っている方もいらっしゃる。その背景の広がりがあったからこそ、グループディスカッションでの議論の幅や深みが一気に広がったのだと思います。同じような環境や背景を持つ人たちだけが集まる研修では決して得られない、ダイバーシティそのものがもたらす大きなメリットを肌で感じました。
すでに女性役員として活躍されている方、自分とは全く異なる領域で成果を出されている役員の方もいらっしゃいましたので、休憩時間やテーブルディスカッションの合間に「日々の役員としての実態ってどうなんですか?」とダイレクトに質問させていただくことができたのも非常に貴重でした。
――現場で実際に役員を務められている方からは、どのようなリアルな声が聞けたのでしょうか。
柏倉 すごく印象的だったのが、ある女性役員の方が「結局、日々の実務としてやっている仕事は人事部長としての役目とほぼ一緒よ。ただ、取締役会という特別な会議体が存在しているだけなのよね」と、おっしゃっていたことです。
もちろん、「じゃあその取締役会という場でどういう発言をするのか」「法的にどのような重い責任を背負っているのか」という部分は、実際にその立場になってみないと分からない領域ではあります。しかし、「やっている実務の延長線上にそれがあるんだ」というリアルな実態を先輩から直接伺えたことで、役員という未知の存在へのハードルが下がり、現実的なキャリアの選択肢としてイメージできるようになりました。
――講義の中だけでなく、昼食の時間や休憩時間、その後の懇親会などでも受講生同士で深く語り合われていましたね。どのような対話が印象に残っていますか。
柏倉 懇親会やお昼休みの時間などに、皆さんそれぞれの背景や想いをオープンに話されていたのですが、後から自分のキャリアを含めてじっくり振り返ってみた時に、気づいたことがありました。
「なぜ自分は、人事という非常に幅広い領域の中で、部分最適ではなく『全体を見る立場』を目指したのだろうか?」「なぜそうなりたいと思い、またその立場を任せてもらえるようになったのだろうか?」と考えてみたんです。
そうすると、自分の中に「会社全体を俯瞰して見たい」という強い欲求があることに気づきました。これは言葉を選ばないと誤解を与えてしまうかもしれないのですが、「すべてを自分の手でコントロールしたい」とか「偉そうに全部を決めて指示したい」という意味では決してありません。そうではなく、「会社のすべての動きや状態を知っていたい、見ていたい。なぜなら、全体を正しく把握していた方が、絶対に会社にとって良いことができるから」という、純粋な好奇心と貢献意欲からくる「全体を見たい欲求」なんです。
あの場にいらしていた「女性役員という存在やガバナンスに興味がある」受講生の皆さんも、置かれている立場や個々のモチベーションの形は違えど、根本にある共通の衝動として、「会社全体に関わりたい」「会社全体を良くしたい」「ちゃんとした健全な組織にしたい」という熱い気持ちを抱いていたのだと思います。それが対話の端々から強く伝わってきたのが印象的でした。
――専門分野は違っても、目指している視座の高さが共通していたのですね。
柏倉 まさにその通りです。「自分の専門性はこれだけれど、この専門性を活かして会社全体にどうアプローチできるか」「ガバナンスという全体枠組みの中で、自分の強みをどう機能させるか」という繋がりを、誰もが模索し、見出そうとしていました。単なる「部門の長」にとどまらず、「全体感を見る」という視点を持つことこそが、役員を目指すうえでの最大の鍵なのだと実感した瞬間でした。
――大きなステップアップを果たされ、見事TASAKIの執行役 Global CHROに就任されました。この1Dayキャンプでの学びや気づきは、その後のキャリア選択や転職活動にどのように影響しましたか。
柏倉 体感として「講座で習ったこの知識が直接そのまま役に立っています」というよりは、転職活動における「企業の見方」や「マーケットの捉え方」において、視点の変化と豊かさをもたらしてくれたと感じています。
講義の非常に早い段階で、野田先生が「そもそも法人とは何か」という根源的なテーマからお話ししてくださいました。「私たち人間はいわゆる『自然人』だが、それに対して会社という集団は法律によって作られた『法人格』という人格を持っているのだ」という解説です。この「法人格」という概念が、私の頭の中に深く、強烈に刻み込まれました。
転職活動を進める際、私は「自然人としての私自身(一人の候補者)はどういう強みや個性があり、何を目指しているのか」という自己分析を行うのとまったく同じ解像度で、「この企業は、一つの『法人格』として見た時にどういうキャラクターで、どういう歴史的成り立ちを持ち、どういう人格なのだろうか?」という視点で転職候補先の企業と向き合うようになったのです。この「法人格として見る」というアプローチが、企業を深く理解する上で非常にしっくりきました。
――その中で、TASAKIという「法人格」に強く惹かれて転職を決められたのですね。
柏倉 はい。TASAKIという法人格を見たときに、これほど世の中に広く知られ、素晴らしい歴史と高品質な商品を持ちながらも、「まだまだこれから飛躍的に成長できる巨大なポテンシャルを秘めている人格」に見えたのです。一見すると完成され洗練された大人のように見えて、実は内部には伸び代が山ほど眠っている。そのキャラクターに強く魅了されました。
TASAKIは、日本発のジュエリーブランドとしてグローバル展開を行っていますが、世界中にはまだまだTASAKIを知らないお客様も多く、国内外ともにより広く深くファンを増やしていける余地がたくさんあります。ストーリーテリングや組織づくりの質を高めていけば、もっともっと世界で伸びていける。そう確信しました。
――長年外資系企業でキャリアを積まれてきて、初の日本企業への参画となりますが、組織文化の違いや戸惑いなどはありましたか。
柏倉 正直にお伝えすると、思っていたほどカルチャーショックや違和感はありませんでした。元々ファッションやラグジュアリーといったライフスタイルビジネスの流れとして、「自社でデザイン・製造した素晴らしい商品を、店舗でお客さまに直接お届けする」という根本のビジネスモデルが共通していたことが一つ大きな理由です。
また、社内には外資系ブランドから移籍してきた社員もいれば、生え抜きで長年ブランドを支えてきた社員もいて、その多様なミックスをポジティブに楽しみながら「次のパワーに変えていこう」という活気あふれるフェーズにあります。ですので、「日本の伝統企業だから」といって戸惑うことは今のところありません。
今回の転職にあたって、私自身「絶対に役員タイトルを得ること」を必須条件にしていたわけではありませんでした。しかし、素晴らしいご縁の中で最終的に役員としてのオファーをいただき、結果として自分でも想像していたより少し前倒しのスピード感で、役員としてのキャリアに挑戦する機会を掴むことができました。
あの1Dayキャンプで「役員の世界観」や「法人格を見る視座」を学んでいなければ、このチャンスをこれほど自然体で引き受けることはできなかったかもしれません。間違いなく、私の背中を押してくれた原点だと感謝しています。
――ありがとうございました。女性役員養成1dayキャンプは、女性の役員や経営層を一人でも多く増やすことをミッションとしていますが、キャンプを経て、見事役員のポジションについていただいて本当にうれしいです。今後もさらに上を目指して頑張っていただきたいと、心から応援しています。
※本事例中に記載の肩書きや数値、固有名詞や場所等は取材当時のものです。
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