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女性管理職を増やす「前倒し」戦略。ライフイベント前にリーダー体験を積ませるべき理由

目次[非表示]

  1. 1.採用時からアンコンシャス・バイアスに要注意
  2. 2.長時間労働が突きつける「仕事と家庭」の両立不能感
  3. 3.入社後のロールモデル不在で意欲を失う女性達
  4. 4.「若い&女性」という二重のバイアスが昇進意欲を削ぐ
  5. 5.女性のキャリアデザイン教育は30代では遅い
  6. 6.リクルートに学ぶ「若手選抜研修」のモデル
  7. 7.キャリアデザイン教育の「ベストタイミング」
  8. 8.「女性だけの研修」に抵抗がある世代にどう対応するか

 なぜ優秀な女性社員ほど、入社わずか1年で昇進意欲を失ってしまうのか。その背景には、長時間労働という「働き方の壁」と、ロールモデル不在による「将来のビジョンの欠如」があります。本稿では、立教大学・中原淳教授による分析とともに、30代のライフイベント後に慌てて対策するのではなく、20代のうちにリーダー体験やキャリアデザイン教育を「前倒し」で実施する重要性を、ダイキン工業やリクルートの成功事例を交えて解説します。

※本稿は、木下明子『図解!ダイバーシティの教科書』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

採用時からアンコンシャス・バイアスに要注意

 今の20代は、少なくとも社会人になるまでは、男女差をあまり感じずにきた人が多いと思います。ダイバーシティ経営のために、まず女性の採用比率を高めたい企業が増えているので、優秀な方なら、むしろ女性のほうが就活には有利な時代ではないでしょうか。

 しかし、現実的に入社してしまうと、1年目で女性の昇進意欲が下がってしまいます。

出典/独立行政法人国立女性教育会館 2017 「男女の初期キャリア形成と活躍推進に関する調査研究」より一部を改変

長時間労働が突きつける「仕事と家庭」の両立不能感

 立教大学経営学部の中原淳教授は、その理由を次のように分析しています。

 「最大のネックになっているのは、職場の長時間労働、働き方です。日本の職場では、働き方改革の大号令もむなしく、いまだに職場の長時間労働体質が抜けていません。長時間労働が横行している職場では、女性は『将来子供を産んだときに、仕事と家庭の両立ができないだろうな』と考えてしまいます。

 このような長時間労働が横行し、それを見直す雰囲気のない職場で働いていると、女性の就業意欲は下がることがわかっています。女性の配偶者やパートナーも長時間労働が横行する職場で働いているなら、この絶望はさらに深いものになります。万が一、子供が生まれた場合には、さらに過酷な『仕事とワンオペ育児』の両立を女性が求められるようになるからです。

入社後のロールモデル不在で意欲を失う女性達

 さらに、管理職や経営層にすでに昇進している人材が男性に偏っていることも問題です。私は仕事柄、企業の管理職研修を見たり、自分で担当する機会が多くあります。 まず、管理職研修でいつも思うことは、その参加者のアンバランスです。日本の企業の管理職研修では、女性が3割いることはまずありません。

 ひどい場合は、100名の管理職がいて、女性が2名程度の企業もあります。いても女性活躍系か総務系、広報系の部署に偏っています。 入社してそういう実態を目の当たりにすると、女性は昇進意欲が失せるのかもしれません。自分が将来、経営層、管理職になるイメージが描けないのです」

 これまで女性に優しい制度以上に、上司と組織全体の働き方改革や柔軟な働き方が、女性活躍には大切だと述べてきましたが、まさにその通りであることは中原氏の話からもわかります。「あらゆる分野で管理職が男女同数いないのはおかしい」と語る20代社員も増えています。そこの改革を前提にしたうえで、入社した20代女性たちの昇進意欲を削がない対策や教育が必須になってくるのです。

「若い&女性」という二重のバイアスが昇進意欲を削ぐ

 20代女性には、そこにさらに「女性」であるというバイアスがかかってくるわけです。第2章でも述べましたが、日本では、まだまだ女性に対するアンコンシャス・バイアスが根強く残っています。「若い」と「女性」、この二重のバイアスが、前述した昭和な働き方や、適切なロールモデル不在に加えて、日本女性の昇進意欲を削ぐ強い要因の一つであると考えられます。

 人事の仕組みを変えるのは容易ではありませんから、20代から正式な管理職にするのは難しくても、ぜひ、チームリーダーなどで、若いうちから小さなリーダー体験をさせてあげてほしいと思います。

 冒頭で述べた通り、30歳前後にライフイベントを迎える女性が多いことを考えると、そこで多少なりともキャリアにブランクが生まれてしまいがちです。それならば「どうせマミートラックに入るから」と考えるよりも、むしろ男性よりも早めに現場で実力をつけさせるとともに、会社や上司がキャリアデザインをサポートし、優秀な方はライフイベントを迎える前に昇進させたり、またはいつ昇進しても大丈夫という状態にしておくことが、今後女性管理職を増やすために最も大切な施策の一つとなってくるでしょう。

女性のキャリアデザイン教育は30代では遅い

 女性活躍先進企業では、すでに若手女性向け研修や教育を取り入れています。

 20〜30代前半の若手女性を対象とした選抜研修を実施しているダイキン工業の野間友惠人事本部人事企画グループ長(部長)は、「30代半ばをすぎると、仕事に慣れてきて自分の得意不得意もわかり、『私はこのままこの道で行くんだな』と自ら道を狭めてしまいがちです。その前にリーダー研修を受ければ、視野が広がり、よりレベルの高い仕事や新しい仕事に挑戦したいと思えたり、出産や育児といったライフイベントと両立しながら仕事ももっと頑張りたいという意欲が高まります。実際、この点は、若い女性社員の意識改革にかなり効果的だったと感じています」と語ります。

リクルートに学ぶ「若手選抜研修」のモデル

 同じくリクルートでも「Career Cafe 28」という、20歳前後の若手女性を対象とした研修を行っています。同社の江藤彩乃DEI推進部部長によると「この年齢は今後、ライフイベントを迎える可能性が高まっていたり、将来のキャリアに対して不安を抱えたりする時期でもあります。そのモヤモヤを事前に解消することが、復職後や30代以降の活躍につながるのではと考えました。

 研修では、主に自分の強みの棚卸しや、前倒しのキャリア構築について学んでもらっています。これまでに累計1300名以上が参加しており、参加者の満足度は77%。『今、目の前の仕事に一生懸命取り組み、自分に付加価値をつけていくことが大切だとわかった』など、ライフイベントなどを経ても、自分らしく働いていける自信がついたという声も多いですね」。

 このように、できたら入社3〜5年目、遅くとも30歳くらいまでには、何があってもキャリアを貫いていくマインドセットを踏まえた「キャリアデザイン教育」を導入すれば、女性の気持ちは、ぐっと前向きになると思います。

キャリアデザイン教育の「ベストタイミング」

 実際、30代で出産後の女性を集めて両立研修をしたものの「明らかに遅すぎた」と断言する大企業の人事の方もいらっしゃいました。30代以降でも、この手の研修はしないよりはしたほうがよいですが、育休復帰直後や子供がまだ小さい方は、すでに育児と仕事の両立で頭がいっぱいになりがちです。

 20代を普通に一般社員として過ごしていて、キャリアや昇進に対するマインドセットができていなければ、特にキャリア温存の仕組みをつくることもなく、ライフイベントに突入してしまい、「育児と仕事の両立以上のことを要求されても今は無理です」と戸惑うだけだったり、すでに家庭中心モードになりきって耳に入りにくい方も多いのです。

「女性だけの研修」に抵抗がある世代にどう対応するか

 「女性だけに向けた教育・研修」というと、少なくとも学生時代、そして出産するまでは、男女平等でやってきた若い世代ほど反発が強いようです。女性だけ、という段階で「性差別だ」と、とらえられてしまうのです。

 現実的には、前述のように入社後モチベーションが下がる女性が多いですし、上にいくほど女性の管理職の数が減っていきがちなのも事実です。特に女性活躍があまり進んでいない企業であれば、まだまだ企業の中でマイノリティであり、ライフイベントの負担なども現実的に重くかかってきがちな女性に対しての研修や教育は、私は必要だと思います。

 それでも、社内での反発が非常に強く、どうしても女性だけのキャリア教育が難しい状態であれば、男女両方ともに使える内容を入れてはどうでしょう。これからは男性で育休や時短を取る方も増えてくるでしょうし、キャリアデザインやライフイベントとの両立教育は、性別関係なしに必要だからです。

 しかしながら、男女ともに20代は結婚や出産についてまだどうするか考えていない方もいますし、そもそもそれをまったく望んでいない方もいるので、両立教育の部分は、希望者の方だけにオプションでつける、年齢が上がってから改めて考え始めた方も参加可能とするのも一つの手でしょう。

プレジデント総合研究所 佐藤
プレジデント総合研究所 佐藤