人的資本経営の実践ガイド:企業価値向上のための戦略的アプローチ~人的資本経営に栄枯盛衰はない~
目次[非表示]
- 1.経営資源の中の人的資本
- 1.1.経営資源とは?
- 1.2.経営資源とはヒト・モノ・カネの3つを示します。最近では、情報、知識(ナレッジ)、時間(スピード)、ネットワークの4つを加え、私は7つの経営資源と呼んでいます。今回は従来のヒト・モノ・カネの3つに絞り、どういうからくりになっているかを紐解きたいと思います。
- 1.3.経営資源の中での人的資本とその重要性-“企業は人なり”と言われる理由
- 2.人的資本の捉え方
- 2.1.経済的な視点からの人的資本
- 2.2.社会的な視点からの人的資本
- 2.3.文化的な視点からの人的資本
- 3.組織成員の能力特性を可視化するツール
- 3.1.能力の構造を理解する-心・技・体
- 3.2.市場価値を心・技・体の統合として診る
- 3.3.市場価値(統合型人間力)診断テストについて
- 3.4.ストレス値から、組織健康度、組織生産性を診る
- 3.5.イノベーション人材からイノベーターを選抜する
- 3.6.推定年収から健全な危機意識、行動変容を促す
- 4.人的資本経営の具体的事例
- 4.1.日本企業における人的資本経営の成功事例
- 4.2.グローバル企業の取り組みとその成果
- 4.3.各業界での人的資本経営の実践例
- 5.人的資本経営の課題と今後の展望
経営資源の中の人的資本
経営資源とは?
経営資源とはヒト・モノ・カネの3つを示します。最近では、情報、知識(ナレッジ)、時間(スピード)、ネットワークの4つを加え、私は7つの経営資源と呼んでいます。今回は従来のヒト・モノ・カネの3つに絞り、どういうからくりになっているかを紐解きたいと思います。
株式会社の使命は出資者である株主に利潤を追求することです。利益があってこそ、株価が上がり、配当が得られ、株主は満足します。つまり、カネは結果論です。“日本資本主義の父”と称される渋沢栄一氏の名言として、“カネは働きの滓である”とかつての上司から学んだことを想起する訳です。
潤沢なカネを得るためには、良質なモノやサービスを提供し、顧客を満足させることが前提となります。品質の高いモノやサービスを提供するためには何が必要条件でしょうか?社員の品質です。そのようなモノを企画・開発するヒトの品質や仕事をする上での環境が整備されている必要があります。
そういう意味では、能力特性が秀でたヒトを採用し、成果を出し続けるヒトになるべく、OJTや研修を通じて、人材を開発していく必要があります。良いヒトを採用する条件としては、経営者の品質が問われます。
経営におけるバリュー、ミッションは過去から現在までに培われたものです。ビジョンは未来の目的地・理想像・在りたい姿です。ビジョンに辿り着くための道筋、アクションプランはストラテジー、戦略ですね。その解像度が高ければ、推進力が働き、結果的に収益が良くなります。そういう会社へ良い人材は集まっていきます。
経営資源の中での人的資本とその重要性-“企業は人なり”と言われる理由
以上のようなカラクリが解れば、経営資源の中の原資とも言えるヒトにフォーカスを当てることが重要です。“企業は人なり”という言葉がありますが、正にその通りです。現時点の競合他社や将来想起できる競合に、人材採用、人材開発、人材配置、人材評価や処遇において、競争優位性を見い出すことが重要であることがご理解できるかと思います。
また、組織はトップで決まるというフレーズも腑に落ちますね。卑近な例で言うと、コンビニは店長で決まりますね。優秀な店長であれば売り上げが上がり、そうでないと売り上げが落ちますね。スーパーマーケットでも業績を見れば一目瞭然です。“魚は頭から腐る”というロシアの格言がありますが、正にその通りです。
企業が持続可能な成長をし続けるためには、バリュー(行動規範)、ミッション(やりがい)をベースに、ビジョン(共感できる魅力的な未来像)と戦略(そこに辿り着くための道筋・アクションプラン)でほぼ決定されます。ここが舵取りするための心臓部分と考えて宜しいでしょう。これを描くのは企業のトップマネジメントチームですね。
人的資本の捉え方
経済的な視点からの人的資本
労働力の価値を考える場合、量と質の両面で労働力を捉える必要があります。量は頭数という言葉がある通り、ヘッドカウントです。質に関しては、“経営の神様”と称された稲盛和夫氏が提唱する成功の方程式-考え方×熱意×能力です。能力や熱意があっても考え方がきちんとしていなければ成功に結び付かないということです。
需要と供給という視点で考える必要があります。労働力をパワーシフトする必要があります。今、需要が高い分野における人材投資、DXを推進できる人材、生成型AIを戦略的に活用できる人材は引く手あまたです。リスキリングという言葉がここ数年耳にされると思いますが、需要がある分野への能力開発は必要不可欠と言えるでしょう。
社会的な視点からの人的資本
社会性とは結び付きを意味します。チームとしての生産性を最大化するためには、メンバー個々の能力や特性をリーダーがきちんと把握することです。能力レベル、性格タイプの両面から適材・適所を実現することです。私は“適材・適所”に置かれた状態を人財と定義しております。つまり、仕事がフィットしていて、人間関係も良好であれば、自然と頑張ることが出来、結果的にパフォーマンスも上がります。
社内外を通じての人脈も仕事をする上では重要です。経営をするために重要なものとして、人脈を掲げる経営者は多いものです。会社を越えて、打てば響く、壁打ちができる人材をネットワーク化することは大いに役立つことでしょう。
文化的な視点からの人的資本
文化とは当たり前の行動習慣・生活習慣を意味します。人や組織に文化は存在します。人基点で考えれば、パーソナリティ(性格特性)そのものです。思考行動パターンは文化です。同質系のタイプは文化が似ています。逆に、異質系のタイプは文化が異なります。同質の方同士は思考行動パターンが似ているため、直ぐに分かり合える関係です。逆に、異質の方同士は思考行動パターンが異なるため、始めは違和感を感じますが、お互いの良さを認め合う関係になれば、相互補完関係となります。
組織の目的、存在意義はシナジー(相乗)効果です。1名+1名が2名より大きくなることです。同質の組み合わせは化学反応が起こらないため、1名+1名が2名という世界になります。つまり、量が2倍に増えるだけです。
異質との組み合わせこそがシナジー効果を生み出します。拡大解釈をすれば、イノベーションを誘発するということです。“進化とは異種との交わりである”とは進化論のチャールズ・ダーウィン氏の有名な言葉です。
以上のことから、人と人とのマッチングは組織生産性を考える上で極めて重要な要素と言えるでしょう。
組織成員の能力特性を可視化するツール
人的資本経営を効果的に実践するためには、組織成員の能力特性を適切に把握し、可視化することが不可欠です。この過程は、企業の人材戦略の基盤となり、持続的な成長と価値創造につながります。プレジデント社と企業変革創造が共同開発した「市場価値(統合型人間力)診断テスト」は、このニーズに応える革新的なツールとして注目されています。
能力の構造を理解する-心・技・体
「市場価値(統合型人間力)診断テスト」は、個人の能力を「心・技・体」という3つの要素から構成される統合的な構造として捉えています。この枠組みは、ビジネスパーソンの全体的な能力を多角的に評価し、バランスの取れた人材育成を可能にします。
「心」は個人の価値観やモチベーション、使命感を表し、「技」は専門知識やスキル、「体」は心身の健康状態や体力を指します。これらの要素を総合的に評価することで、個々の従業員の強みと弱みを特定し、適切な育成計画を策定することができます。
市場価値を心・技・体の統合として診る
組織成員の市場価値は、「心・技・体」の統合的な評価によって診断されます。この統合的アプローチは、従業員の潜在能力と実際の市場価値のギャップを明らかにし、人材投資の方向性を示唆します。
テストでは、ビジネス基礎能力、性格特性、ストレス値、ベンチャーマインド、推定市場価格の5つの柱で能力を測定します。これにより、個人の能力を多角的に評価、分析するオールインワン型の診断が可能となります。企業は、この診断結果を活用して、人材配置の最適化や戦略的な人材育成プログラムの開発を行うことができます。
市場価値(統合型人間力)診断テストについて
「市場価値(統合型人間力)診断テスト」は、セブンレイヤーズ(PRESIDENT Model)というフレームワークに基づいて開発されました。このモデルは、1998年にリリースされたセブンレイヤーズモデルを2024年に令和版としてアップデートしたものです。
テストの特徴として、以下の点が挙げられます:
- 人的資本経営の実現に向けた能力と特性の可視化
- ドラッカーの思想に基づく統合型人間力の診断
- 推定年収の提示による健全な危機意識の醸成と行動変容の促進
- 従来の人材開発モデルからのパラダイムシフト
このテストは、約25年以上の歴史を持ち、延べ200社以上での採用実績と、50万人以上のビジネスパーソンによる受検実績があります。トヨタ自動車、日立製作所、Panasonicなど、日本を代表する企業で導入されており、その有効性が実証されています。
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組織成員の能力特性から人的資本を診る
人的資本経営の実践において、組織成員の能力特性を適切に診断し、活用することは極めて重要です。この過程を通じて、組織の健康度や生産性、イノベーション創出力などの重要な指標を把握し、戦略的な人材マネジメントを行うことが可能となります。
ストレス値から、組織健康度、組織生産性を診る
従業員のストレス値は、組織の健康度と生産性を反映する重要な指標です。高ストレス状態にある従業員が多い組織では、一般的に生産性が低下し、離職率が高くなる傾向があります。
ストレス値の測定と分析を通じて、組織の健康状態を客観的に評価し、必要な対策を講じることができます。例えば、ストレス軽減プログラムの導入やワークライフバランスの改善施策の実施など、組織の健康度向上につながる具体的なアクションを取ることが可能になります。
イノベーション人材からイノベーターを選抜する
イノベーション創出は、企業の持続的成長にとって不可欠です。組織内のイノベーション人材を特定し、適切に育成・登用することで、企業の革新力を高めることができます。
イノベーション人材の選抜には、創造性、問題解決能力、リスクテイキング能力などの要素を総合的に評価することが重要です。これらの人材を戦略的に配置し、適切な環境を提供することで、組織全体のイノベーション力を向上させることが可能となります。
推定年収から健全な危機意識、行動変容を促す
従業員の推定年収を分析することで、個人の市場価値と実際の待遇とのギャップを把握することができます。この情報は、従業員の健全な危機意識を喚起し、自己啓発や能力向上への動機づけとなります。
同時に、企業側も推定年収の分析結果を活用して、公平で競争力のある報酬体系の構築や、人材流出リスクの低減に取り組むことができます。このアプローチは、従業員と企業双方にとって有益な行動変容を促す効果的なツールとなります。
人的資本経営の具体的事例
人的資本経営の重要性が認識される中、多くの企業が独自の取り組みを展開しています。ここでは、日本企業とグローバル企業の成功事例、そして各業界での実践例を紹介し、人的資本経営の多様な形態と効果について解説します。
日本企業における人的資本経営の成功事例
日本企業の中にも、人的資本経営を積極的に推進し、成果を上げている例が増えています。例えば、ソニーグループ株式会社では、「人は価値創造の源泉」という理念のもと、多様な人材の活躍を促進する取り組みを行っています。
具体的には、社員の自律的なキャリア開発を支援する「タレントマネジメントシステム」の導入や、グローバル人材の育成プログラムの強化などが挙げられます。これらの施策により、イノベーション創出力の向上や、グローバル市場での競争力強化につながっています。
グローバル企業の取り組みとその成果
グローバル企業の中には、人的資本経営を戦略の中核に据え、顕著な成果を上げている例が多く見られます。例えば、米国のGoogle社は、「20%ルール」という独自の制度を導入し、従業員の創造性とイノベーション力を引き出すことに成功しています。
この制度では、従業員が労働時間の20%を自由なプロジェクトに充てることができ、Gmail やGoogle News など、多くの革新的サービスがこの取り組みから生まれています。このような施策は、従業員のエンゲージメント向上と企業価値の創出に大きく貢献しています。
各業界での人的資本経営の実践例
人的資本経営の実践は、業界ごとに特徴的な形態をとっています。例えば、製造業では、デジタル技術の急速な進化に対応するため、従業員のリスキリングに重点を置いた取り組みが行われています。
金融業界では、フィンテックの台頭を背景に、テクノロジーと金融の両方に精通した人材の育成が進められています。小売業では、顧客体験の向上を目指し、従業員のホスピタリティスキルの強化が図られています。
これらの事例は、人的資本経営が各業界の特性や課題に応じて柔軟に適用され、企業の競争力強化に寄与していることを示しています。
人的資本経営の課題と今後の展望
人的資本経営は、企業の持続的成長と価値創造に不可欠な戦略として注目を集めていますが、その実践には様々な課題が存在します。ここでは、人的資本経営の実施における課題とリスク、今後のトレンド、そしてテクノロジーの役割について考察し、将来の展望を探ります。
人的資本経営の実施における課題とリスク
人的資本経営を効果的に実施する上で、いくつかの重要な課題とリスクが存在します。まず、人的資本の適切な評価と測定の難しさが挙げられます。無形資産である人的資本を定量化することは容易ではなく、適切な指標の設定と測定方法の確立が求められます。
また、人的資本への投資と財務パフォーマンスとの関連性を明確に示すことも課題となっています。短期的な財務指標に偏重しがちな投資家や経営者に対し、人的資本投資の長期的な価値を説得力のある形で示す必要があります。
さらに、個人情報保護やプライバシーの問題も無視できません。従業員の能力や特性を詳細に分析することは、時として倫理的な問題やコンプライアンスリスクを伴う可能性があります。
今後の人的資本経営のトレンドと将来展望
人的資本経営の今後のトレンドとしては、以下のような方向性が予想されます:
- ESG投資の一環としての人的資本の重視:投資家が企業評価の際に人的資本の状況を重要な要素として考慮する傾向が強まっています。
- ダイバーシティ&インクルージョンの更なる推進:多様な人材の活用が、イノベーション創出と企業価値向上の鍵となることが広く認識されつつあります。
- 従業員エンゲージメントの重要性の高まり:従業員の満足度や組織へのコミットメントが、生産性や創造性に直結するという認識が浸透しています。
- 継続的学習とリスキリングの促進:技術革新のスピードが加速する中、従業員の継続的な学習と能力開発が不可欠となっています。
これらのトレンドを踏まえ、今後は人的資本経営がより戦略的かつ包括的に実施されることが予想されます。企業は、人材育成、組織文化の醸成、働き方改革などを統合的に推進し、持続的な価値創造を実現することが求められるでしょう。
人的資本経営におけるテクノロジーの役割
テクノロジーの進化は、人的資本経営の実践に大きな変革をもたらしています。AI や機械学習などの先端技術を活用することで、より精緻な人材分析や効果的な人材育成が可能となっています。
例えば、ビッグデータ分析を用いた人材パフォーマンスの予測や、VR/AR 技術を活用した効果的な研修プログラムの提供などが実現しています。また、ブロックチェーン技術を用いた信頼性の高いスキル認証システムの構築なども注目されています。
一方で、テクノロジーの導入には、データの信頼性確保や従業員のプライバシー保護など、慎重な対応が必要です。テクノロジーを活用しつつ、人間中心の経営を実現することが、これからの人的資本経営の大きな課題となるでしょう。
以上、人的資本経営の現状と今後の展望について詳細に解説しました。企業が持続的に成長し、価値を創造し続けるためには、人的資本を戦略的に活用し、継続的に強化していくことが不可欠です。今後、さらなる研究や実践を通じて、人的資本経営の理論と手法がより洗練されていくことが期待されます。
<市場価値(統合型人間力)診断テスト受検付きの説明会はこちら>
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